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横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)2097号 判決 1983年5月27日

原告

檀原妙子

被告

根本融

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告に対して金一、〇三九、九二一円及びこれに対する昭和五四年九月九日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は、主文1に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告らは各自原告に対し金一、四〇五、四二三円及びこれに対する昭和五四年九月九日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

第二請求の原因

一  原告は、昭和五四年九月九日午後六時二〇分ころ、横浜市港南区大久保二―三一―八先市道右端を歩行中、対向して進行して来た被告根本融運転の原動機付自転車(港南区ぬ五九八)に接触され、肩、頭部、胸部打撲、左第四中手骨々折、頸椎捻挫、左下腿打撲挫創、右第四肋骨々折の傷害を受けた。

二  被告らの責任

1  被告融は、本件車両を保有している。

2  被告昭は、本件車両を購入、維持、管理してその運行を支配している。

3  仮に右運行支配が認められないとしても、被告昭は同融(当時一六歳)の父として、被告融が乱暴な運転で事故を発生させぬよう注意監督する義務があるのにこれを怠つた過失がある。

三  原告の損害

1  治療費 金一、一二三、二二五円

2  入院雑費 金二〇、三〇〇円

(一) 入院期間 昭和五四年九月一二日から同年一〇月一〇日まで二九日間

(二) 一日 七〇〇円

3  入通院交通費 金二九、二二〇円

(一) 入退院分 金二、三八〇円

(二) 通院日数 昭和五四年九月九日から同年一二月二八日まで八二日(うち実通院日数六一日)

(三) 一日分 金四四〇円

4  文書料 金六、一〇〇円

5  歩行訓練費用 金二、二七〇円

6  休業損害 金五一七、五三三円

(一) 原告は事故当時四〇歳の主婦であつたが、本件事故による入通院により一一一日間稼働できなかつた。

(二) 同年齢の女子の年収は、昭和五四年度の賃金センサスによると一、七〇一、八〇〇円である。

(三) 算式1,701,800/365×111=517,533

7  慰藉料 金七〇万円

8  弁護士費用 金一三万円

四  原告は、自賠責保険から金一、一二三、二二五円の支払を受けた。

五  よつて、原告は、被告らに対して右三の合計額から右四の額を控除した残金一、四〇五、四二三円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年九月九日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるため本訴請求に及んだ。

第三請求の趣旨及び原因に対する答弁並びに抗弁

一  請求棄却の判決を求める。

二  請求の原因一の事実のうち、原告が受けた傷害の程度は知らないが、その余の事実は認める。

三  請求の原因二1の事実は認めるが、同2及び3の事実のうち被告昭が同融の父であることは認め、その余は否認する。本件原動機付自転車は、被告融がアルバイトによつて得た資金で購入したもので、その維持管理も同人がしていた。また、被告昭は被告融に対して、車の運転自体は常に危険を伴うものであるから、安全運転をするよう一般的に注意をしていた。

四  請求の原因三の事実のうち原告の入通院期間は知らない。また、原告主張の損害額は争う。

五  同四の事実は認める。

六  被告融は、本件市道を時速約三〇キロメートルで進行していたところ、進行方向左側の電柱の陰から原告が右道路横断のため突然飛出して来たため接触してしまつたもので、本件事故現場から約二五メートル上大岡寄りのところに横断歩道があるから、原告が右横断歩道を利用していれば容易に本件事故は回避することができた。また、原告は、横断歩道でないところを横断するのであるから、横断に際しては左右の安全を十分確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、前記のように走り出すような状況で飛出したため本件事故が発生したのであるから、重大な過失があり、被告融は本件自転車の運行に関し注意を怠らなかつたといえる。

理由

第一本件事故の発生及びその責任

一  当事者間に争のない事実並びに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第二号証並びに成立に争がない甲第一一号証を総合すれば、請求の原因一の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二  請求の原因二1の事実は当事者間に争がない。

三  成立に争がない甲第四、第一二号証及び被告融本人尋問の結果によれば、同人は本件事故当時満一六歳で、父である被告昭と同居し、東京学園高校に在学していたことが認められるので、たとえ被告ら主張の如く本件原動機付自転車は被告融がアルバイトによつて得た資金で購入したもので、その維持管理も同人がしていたとしても、同人の父である被告昭は、その監護義務に基く運行供用者責任を免れることができないといわなければならない。

四  成立に争がない甲第八号証の一、二、同第九、第一〇号証、本件事故現場の写真であることに争がない乙第一号証の二、三、六から八まで、被告根本昭の供述により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一五並びに原告本人及び被告融本人各尋問の結果(被告融の供述については、後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、次のような事実が認められる。

1  被告融は、幅員五・五メートルの本件市道の左端から一・三メートルのところを時速約四〇キロメートルで進行していた。

2  被告融は、一三メートル先に普通の速度で歩いて来る原告を発見したが、原告が歩度をゆるめたので、被告融をやり過してくれるものと速断してその脇をすり抜けようとして六メートル進んだところ、道路左側にあつた電柱のかげから出て来た原告を五・四メートル先に発見し、あわててブレーキをかけたが間に合わず、同人と接触した。

3  本件市道には歩車道の区別がなく、原告進行方向右側には民家の塀があり、道路外には出られず、本件事故現場から一・六メートルのところに電話支線柱があつた。

4  右電柱と塀との間をすり抜けることはかなり困難であつたので、原告がその電柱の左側(道路側)道路端から一・一メートルのところに出たところ被告融の原動機付自転車と接触した。

5  歩行者が通常そのような行動をとることを、被告融は熟知していた。

6  右認定に反する被告融本人尋問の結果(一部)は、前掲各証拠に照してたやすく措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。

7  右1から5までに認定した事実によれば、原告に過失があつたとは認められず、また被告融が本件自転車の運行に関し注意を怠らなかつたとはいえない。

8  前掲甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は帰宅の途中であり、原告宅は、本件事故現場から六、七メートル先へ行つたところを右折したところにある事実が認められるので、前記のように道路右側を歩行していた原告としては、道路を横断する必要はないわけであるから、道路横断を前提とする被告らの主張は理由がない。

第二損害の算定

一  前掲甲第二号証並びに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第三号証によれば、治療費として金一、一二三、二二五円を要したことが認められる。

二  右甲第二号証によれば原告は、その主張のとおり二九日間堀内整形外科に入院した事実が認められるので、一日七〇〇円の割合による入院雑費合計金二〇、三〇〇円を要したものといえる。

三  入通院交通費、文書料、歩行訓練費用については、これを認めるに足りるなんらの立証も存しない。

四  休業損害

1  前掲甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時四〇歳の主婦であつたことが認められる。

2  原告が本件事故による傷害のため、堀内整形外科に二九日間入院したことは既に認定したとおりであり、前掲甲第二号証によれば原告がその主張のとおり堀内整形外科に六一日間通院した事実が認められるから、休業期間は九〇日である。

3  四〇歳の女子の昭和五四年度の平均賃金が一、七〇一、八〇〇円であることは、当裁判所に顕著な事実である。

4  算式 1,701,800÷365×90=419,621

五  慰藉料としては金五〇万円を認めるのが相当である。

六  本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては金一〇万円を認めるのが相当である。

七  原告が自賠責保険から金一、一二三、二二五円の支払を受けたことは当事者間に争がない。

第三結論

よつて、原告の本訴請求は、被告らに対して前記第二の一、二、四から六までの合計額金二、一六三、一四六円から七の金一、一二三、二二五円を控除した残金一、〇三九、九二一円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年九月九日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三井哲夫)

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